始まり


「今日から、そなたを『朱雀院 麗華』を名乗ることを許す」
「ありがたき言葉、ありがとうございます」
黒光りしている板間。
灯篭以外の灯りのみが辺りを照らしている。
歳若い少女とその少女よりもひとまわりかふたまわり
ぐらい年上の女の人が向かい合って儀式を行なって
いった…。

「お屋敷」と呼ぶにふさわしい木製の家。
そしてりっぱな門。
広い敷地の持ち主は「朱雀院」という旧家。
古くから言い伝えられている四神のうちの一つで、南の
方角を守ると言われている。
朱雀院家は昔から南の方角である現在の家に居続け、
害をなす者から古都を守り続けている。
代表の名は代々「朱雀院 麗華」。
その名を受け継いだ少女は受け継いでから最初の朝を
迎えていた――

――チュン チュン
「……ん……あ、さ……?」
障子越しに入ってくる柔らかい光に起こされた女の子は
ゆっくりと布団から体を起こした。
「お嬢様」
体を起こしたと同時にタイミングよく声がかかる。
障子の下についているガラスを見ると着物を着たお手伝い
さんが正座をして座っている。
それだけでわかる。いつも身の回りの世話をしてくれている、
母とそんなに歳も離れていないお手伝いさんだ。
「はい」
「制服を置いておきますのでお着替えをなさったら居間へ
お越し下さい」
「すぐ参ります」
その言葉を聞くとお手伝いさんは立ち上がり、静かに廊下を
歩いて行った。
障子を開けると制服が綺麗に畳まれて置いてあった。
女の子は障子を閉めて無言で制服を着る。
そして鏡台に座ると腰まで伸びた髪をくしで軽く整えると自分
の頬をパシッと叩いた。
「私は今日から『朱雀院麗華』。頑張れ!」
鏡の中の自分にそう励ましてからにこっと微笑み、鞄を持って
居間へと駆けて行った。

「おはよう。麗華」
「おはようございます。お母様」
麗華は母である、麗子と挨拶を交わす。
「麗華。今日からその制服で至宝学園に通ってもらいますから
ね。
初日で道もわからないだろうから今日は車で行ってもいいわ」
「…はい、お母様」
朱雀院家は麗華を名乗ることを許されると『至宝学園』という
特別な者しか入学することを許されない学園に入学、または
転校することになる。
麗華はちょうど中学を卒業したので高等部に入学することに
なる。
「……ごちそうさまでした。では、行ってまいります」
「行ってらっしゃい」
悠々と食事を続けながら見送る母に軽く微笑みながら麗華は
鞄を持ち、出かけて行った。
「……さて、どう変わるかしらね」
玄関に向かって行く麗華を静かなまなざしを向けていた麗子は
楽しそうにフフッと微笑み、食事を続けた。